クラウド・オブジェクト・ストレージとは?

クラウド・オブジェクト・ストレージは、膨大な量の非構造化データの保存と管理を簡素化するデータ・ストレージ・アーキテクチャのひとつです。

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クラウド・オブジェクト・ストレージは、膨大な量の非構造化データの保存と管理を簡素化するデータ・ストレージ・アーキテクチャのひとつです。従来のファイルベースやブロックベースのデータベース・ストレージ・システムと比べて、クラウド・オブジェクト・ストレージ・モデルで使用する別個のデータ、すなわち「オブジェクト」はそれぞれが独立しているため、信頼性が高く、コストパフォーマンスの高い方法で簡単かつ効率的に非構造化データを追跡、管理、活用することができます。

このストレージモデルは特に、現在急増している非構造化データの管理に適しています。IDCによると、非構造化データは間もなくデータ全体の80%以上を占めるようになると予想されています。非構造化データには、工場のセンサー、スマートカー、モバイル機器、検索エンジン、ソーシャルメディア、ウェブ上のあらゆる場所などさまざまなソースに含まれるあらゆる種類のRAWデータ、さらにはオーディオ、ビデオ、写真、PDF、Eメール、ウェブページ、インボイスなどあらゆる種類のファイル、天気のデータや分析などの記録が含まれます。基本的に、関係データベースや構造化されたファイル・スシステムの本質的な一部ではないものすべてが、非構造化データということになります。非構造化データには、膨大な潜在的価値が存在します。

クラウド・オブジェクト・ストレージの仕組み

クラウド・オブジェクト・ストレージでは別個のデータをオブジェクトとして扱い、各データをネイティブ形式で保存します。独立したクラウド・オブジェクトには、データ・オブジェクト、その詳細を説明するメタデータ、そしてアプリケーション・プログラミング・インターフェイス (API) が保存データを見つけ出せるようにするための固有IDが含まれます。

これらのオブジェクトにはお互いに関係が必要ありません。つまり、複雑なデータ階層、フォルダ、ファイルベース・システムのディレクトリが必要ないということです。こうしたアプローチを取るクラウド・オブジェクト・ストレージは、従来の行と列で構成されたデータベースのリレーショナルなストレージ要件に適していないEメール、画像、オーディオ・ファイル、IoTデータ、ウェブコンテンツなどの非構造化データにとって、理想的な選択肢となります。

オブジェクトへのアクセスは、APIによって制御されます。HTTPベースのRESTful APIを使って、クラウド内のオブジェクトにどこでもいつでもどのデバイスからでもアクセスすることができます。PUT、POST、GETおよびDELETEなどの一般的なコマンドを使って、適切な権限を持つユーザーは必要に応じてクラウド・オブジェクト・ストレージを簡単に管理することができます。

オブジェクト・ストレージはローカルデータベース、ハイブリッド・クラウド、マルチクラウド環境をはじめとするあらゆるITフレームワークで使用できますが、企業が日々作成するデータの量と多様性により、クラウド・ストレージのコストパフォーマンスがさらに高まり、企業はデータ・ストレージ・インフラストラクチャを無限に拡張できるようになります。

ファイルおよびブロックベースのストレージとクラウド・オブジェクト・ストレージ

ファイルベースのストレージは、スプレッドシートやSQLデータベースなどの構造化データ間に階層的なつながりを作る関係モデルを使用します。簡単なアプリケーションやファイルの関係性や依存関係をすばやく特定できる機能があるおかげで、オンプレミス・ストレージの使い慣れた機能的なオプションはそのまま保たれます。

ブロックレベル・ストレージとも呼ばれるブロックベース・ストレージは、クラウドベースのストレージまたはストレージ・エリア・ネットワーク (SAN) を使ってシンプルで拡張性の高いデータ・ストレージを提供します。データが等しいサイズのブロックに分割され、各ブロックは別々に保存され、それぞれに固有IDが割り当てられます。このアプローチによって、保存されたブロックを特定のユーザー環境から切り離すことができます。つまり言い換えると、割り当てられたIDを使って、どこからでもブロックを保存したりアクセスしたりすることができます。

一方クラウド・オブジェクト・ストレージのアプローチは異なります。データを等しいサイズのブロックに変換して統一したストレージ・スペースを作成するのではなく、生成元、サイズ、あるいは種類に関係なく、オブジェクトをネイティブ形式で保存します。オブジェクトにはブロック・ストレージと同様に固有IDが割り当てられますが、そこには保存するコンテンツにコンテクストを追加する記述的なメタデータが含まれます。オブジェクトベース・システムを使って保存したオーディオ・ファイルについて考えてみましょう。IDがファイルにアクセスするための独自のパスを提供し、メタデータがファイルがいつ記録されたものであるか、誰が作成したものであるか、誰が所有するものであるか、著作権が適用されているかなど、コンテクストを提供します。

オブジェクトIDは静的である一方、メタデータはオブジェクト・ストレージの説明や詳細を最新の状態に保つために必要に応じて編集することができます。

クラウド・オブジェクト・ストレージの主な利点

コンポーザビリティ

オブジェクト・ストレージ・ソリューションは、独立したデータ・ストレージのアプローチによって、コンポーザブル(構成可能)なクラウド・インフラストラクチャへの移行を促進します。企業は仮想化されたコンポーザブルなリソースをリアルタイムで展開しながら、オブジェクトへのアクセス、移動、あるいは複製を簡単に行って全体的なIT性能を高めることができます。

カスタマイズ

クラウド・オブジェクト・ストレージではメタデータの完全なカスタマイズが可能となるため、データ・アセットを特定するために要する時間を短縮することができます。ブロック・ストレージは正確なIDの知識を使って主要データを探す一方、クラウド・オブジェクト・ストレージは記述的なメタデータを使用するため、キーワードベースのオブジェクト検索機能の実装が可能になります。

さらに新しいオブジェクト・ストレージ・ソリューションは、大規模なデータ管理を簡素化するオープン・ソースに対応します。オープン・ソースでは企業が特定のプロバイダーしか選べなくなる固有のストレージ・アーキテクチャを使用せずに、最新のニーズに対応し、IT環境の拡張に合わせて変えていけるよう、ストレージ・フレームワークをカスタマイズすることができます。

継続性

オブジェクト・ストレージをクラウドに移行することで、企業はデータ継続性、最終的には安定した可用性と高い拡張性を手に入れることができます。クラウド・オブジェクト・ストレージでは、場所、時間、方法に関係なく、データへのアクセスが可能になります。オブジェクト・ストレージ・デバイスは、忠実度を損なうことなく、より大きなプールに簡単に集約したり、複数のクラウド環境間で複製したりして、いつでもどこでも一貫したアクセスを提供することができます。

コンプライアンス

オンサイト、コロケーション・データセンター、あるいはクラウドなど、データを保存する場所や方法に関係なく、企業には規制を徹底して遵守する責任があります。企業はオンサイトのファイルベース・ストレージを使用する場合、拡大するデータソースを保護するために必要となるローカルの情報セキュリティ担当者や拡張性の高いテクノロジーに投資しなければなりません。

信頼性の高いクラウド・プロバイダーと組むことで、オブジェクト・ストレージのインスタンスを高度な暗号化で保護し、PCI DSS、HIPAA、FISMA、GDPRなど関連のあるセキュリティ規制を遵守してストレージのコンプライアンスを簡素化することができます。

コスト管理

クラウドベースのオブジェクト・ストレージ・サービスでは通常、利用に応じて料金を支払う料金モデルが採用されているため、企業はストレージのコストを正確に管理し、コストのばらつきのリスクを抑えることができます。ハードウェアを事前に購入する必要がないため、企業は設備投資費を削減し、代わりに事業費投資を有効活用することでストレージの最大化を図ることができます。

クラウド・オブジェクト・ストレージの用途について考える

クラウド・オブジェクト・ストレージの用途として以下が挙げられます。

ビッグデータ分析

データ分析は、特に非構造化データの量が増える今、組織が実用的な洞察を得るうえで欠かせないものです。ネイティブ形式であらゆる種類のデータを保存したりアクセスしたりできるクラウド・オブジェクト・ストレージは、非構造化データ分析をサポートすることで、企業が重要なデータのつながりを特定し、スピーディーにトレンドに対応できるようにします。

AIアプリケーション

人工知能 (AI) ツールや機械学習 (ML) アプリケーションは、プロセスの自動化やエラー率の低下を実現しますが、一貫した結果を出すためには、大量の構造化データと非構造化データを使用してトレーニングを行う必要があります。

クラウド・オブジェクト・ストレージは、どこでもいつでもネイティブ形式でデータ・セットにアクセスできる機能を提供するため、AIのトレーニングから効果的な実装までを短期間で実現することができます。

クラウドベースのサービス・サポート

大規模なITサービスに対応するためにクラウドベースのアプリケーションの開発・展開を行っている企業が増える中、クラウド・オブジェクト・ストレージはこうした次世代アプリのためのデータの収集、保存、使用をさらにパワーアップさせます。

さまざまなデータソースを使ってパーソナライズされたインタラクションや最新のおすすめ、販売、あるいはサービス情報を提供したりするユーザー向けモバイル・アプリケーションを想像してみてください。ここでファイルベースのストレージ・システムを使用すれば、階層的要件によって提供できる関連データの量に限界が生じます。この場合は、ブロックベースのストレージ・システムのほうがクラウドに合っていますが、特定のブロックを特定し取り出すのに時間がかかるため、この方法はスピードが重要となるモバイル・アプリでは使えません。一方クラウド・オブジェクト・ストレージは、データ・アクセス要件をシンプルに簡素化することで、クラウドベースのサービス・サポートを改善します。

バックアップとリカバリ

オブジェクト・ストレージ・システムは自動的に構成してコンテンツを複製して複数のリカバリ・インスタンスを作成するため、プライマリ・ストレージ・ソリューションに障害が発生しても常にデータ・アクセスを確保することができます。また、オブジェクト・インスタンスを複数のクラウドやオンプレミス環境で簡単に複製して、冗長性の高いストレージ環境を構築することができます。